K-1登場人物 ~選手編2・時代に流されない職人~
オレは昔、~~してたんだ。

仕事の飲み会などで、始めて出会う人でこういうかつての武勇伝を大層に語る人があります。
いや、飲み会だけじゃなく、職場や学校、とにかくあらゆる場で過去の自分をえらそうに語る「先輩」たちがいます。
しかし私は「過去偉大であったかもしれない人」をそれだけの理由でリスペクトしません。
問題なのは、それがどう繋がって、今何をしているのか。そうではないですか?




第2回はピーター・アーツです。




日本では、「20世紀最強のキックボクサー」とか「最強の暴君」とか言われていますが、
欧州では、「ランバージャック」というあだ名が一般的です。
「ランバージャック」というのは、木こりのことです
木こりというと、日本ではおじいさんが山へ柴狩りにいくようなイメージですが、「ランバー」というのは巨木のことを指します。北米や中欧の大森林地帯で、チェーンソーもなかった時代に斧一本で「ランバー」をばったんばったんなぎ倒す。そんな、怪力自慢の男たちのことを「ランバージャック」と呼んでいたそうです
斧のような太い脚で、巨木のような対戦相手をやすやすとなぎ倒していったアーツに、これほど相応しいニックネームはありません。

ピーター・アーツは父親が林業従事者らしく(平原のオランダにそんな森があるのかどうかは知りませんが)、その関係からか入場の際にはいつもあの「バッファローチェック」の服と帽子(北米の木こりたちの伝統的なスタイル)で現れました。
いつからそのスタイルをはじめたのか、私は知りませんが、その伝統的な木こりの衣装を纏うことで「ここがオレの職場だ」という意識を持っているのかも知れません。
そう…………「職場」。
ピーター・アーツにとってはリングのこそが、「職場」です。

K-1ファイターになる前のアーツは、すでに有名なキックボクサーでした。8年間無敗のモーリス・スミスに土をつけたことで、その名はキック界に知られることになったのです。

この16年間、K-1と彼を取り巻く環境は劇的に変わっていき、そして今も変わり続けているのだと思いますが、彼自身はどうなんでしょうか。

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アーツの歴史を少しだけ紐解いてみます。
ボクシングをやっていたらしい祖父と叔父の影響で格闘技をはじめ、19歳のころに初のキックボクシング・タイトルを得た若き日のアーツは、20代の頃には練習もそこそこに遊び歩き、試合に勝っては飲み、友人を連れてパブでバカ騒ぎをしていたそうです。オランダ人でK-1を知っている人などほとんどいませんでしたから、わずらわしい有名税もなく、たまにリングに行って材木の代わりに対戦相手を切り倒す若い木こりのような生活を送っていました。
バッファローチェックのジャケットを羽織って。

次はこの現場だと言われれば、行って木(相手)を切り倒し、次はこの現場だと言われれば、黙々と木(相手)を地に這わせる。仕事の後は、疲れを癒すために美味い酒を労働者仲間たちと大騒ぎしながら飲む。
それはまさに、在りし日の「ランバージャック」の姿ではなかったのでしょうか。
もしかしたら、アーツは格闘技に目覚めていなかったとしても、普通の肉体労働者として同じように、同じライフサイクルで生活をしていたのかもしれません。
やはりバッファローチェックのジャケットを羽織って

しかし、何度もK-1で優勝し、大きな興行になっていくにつれて、ファイトマネーのケタが上がって行くにつれて、周囲の様子が変わっていったのでしょう。
それまで所属していたドージョー・チャクリキを離れた後、「金のことばかりに鼻が利く連中とはおさらばだ」と笑い飛ばしました。
レミー・ボンヤスキーも、二連覇の後、不調の時期がありました。そのころ「友人だと思っていた人たちが去っていった」と語っていましたが、彼が結構くよくよしていたのに対して、アーツは「関係ねえよ」って感じでした。性格が表れています。

豪放にして、豪胆。あっけらかんとして、深いことは追求しない。
よく笑い、よく飲み、よく食べ、よく泣く。
絵に描いたようなわかりやすい好漢。


それこそが、ピーター・アーツという男の本質ではないかと想像します。

2000年、アーツは天敵シリル・アビディにまさかの敗戦を喫してから、長い戦いの証拠ともいえる足の怪我や腰の怪我に悩まされます。特に腰の不調は、彼のパワー溢れるハイキックを封印させるに至りました。
しかし、アーツは何事もなかったかのようにリングに立ち続けます。
それが「仕事」だから。
キックという斧の代わりに、パンチを中心としたテクニカルなファイトで、新世代と呼ばれる選手たちと何度も戦いました。以前の荒々しい豪胆な「ランバージャック」ぶりは鳴りを潜め、老獪ともいえる試合巧者ぶりを発揮していきます。それでも、戦績は以前の「最強」の頃ではありませんでした。

ファンは、「アーツの時代は終わった」と、過去の人として扱い始めます。
時代の移り変わりとともに、選手たちも様変わりし、ボブ・サップのようないかにもアメリカっぽい演出が得意な選手も登場し、すっかりアーツは主役の座を奪われました。
また、総合格闘技PRIDEが日本の格闘界を席巻し、収支を無視した異常な金のばら撒きで、選手のファイトマネーなどを吊り上げ、K-1からも執拗に選手を引き抜き、「1/60億」などと嘯いて狂気じみた熱病を生み出していきました。
そんな転換期の21世紀初頭。自身にとって逆風吹き荒れる冬の時代にあっても、「20世紀最強のキックボクサー」は黙々と腰の治療をしながらリングに登り続けました。

バッファローチェックのジャケットを羽織って。

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平時、仕事や学業に抑圧され、ある種の「ワンダーランド」、「未知の世界」をのぞきに高いチケット代を払ってやってくる観客の中心で、全く裏腹に日常業務をこなす孤高の仕事人。
非日常そのものが日常。
皮肉でもなんでもなく、ピーター・アーツが望むままに選んだ彼の「職場」。

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アーツは、オランダ人らしい個人主義者であり、肉体労働者らしい、くよくよしない豪放な性格を示すコメントを発します。
ボブ・サップや曙の台頭については、
「いいんじゃねえの?」
で、終了。
日本人が決勝トーナメントに残れないことについては、
「日本人の問題だろ?」と、意に止めない。
ホースト戦直前に逃亡したボブ・サップの代役を務めたときは、
「K-1がオレの力を必要としていたからな」
とシュルトのトランクスを借りて快く出場。
ひとたび求められれば、誰が相手でも戦い、緊急のオファーも断らず、総合格闘技の試合にだって出場する。

しかし、時としてアーツは情に厚く、優しい一面を見せます。
2000年。腰の治療のために日本に残っていたアーツは、アンディ・フグが急死した際、テレビのインタビューでアンディのTシャツを着て、「一番の親友だった」と号泣しました。
公式HPにおいて、趣味は「自分の子供」と掲載する子煩悩。
そして、彼のトレードマークである二つの斧がクロスした「ランバージャック」のロゴ。
その真ん中には、日の丸が描かれているのです。
それは、彼の「職場」である日本の国旗を模したものに相違ありません。

細かいことは気にしない、性格のいい大男。
家族を愛し、仕事では真面目に働く努力家。
敵を作らず、かといって、群れもせず、
プロレス的な日本のマスコミ受けのするリップサービスもせず、
リングの上では相手の弱点を容赦なく、かつ執拗に狙う。
しかし、自分をリスペクトしてくれる日本に対しての敬意は忘れない。
これは、まさしく「職人」そのものではないでしょうか。

2006年の決勝戦、ついに途切れたかと思われたK-1WGP決勝戦連続出場記録。しかし、レミー・ボンヤスキーとステファン・レコの棄権でリザーバーだったアーツにチャンスが回ってきました。
いつもリングに立つ時は、観客にとって不利益なアナウンスを行わなければならないかわいそうな角田信郎氏も、この日は力が入っていました。
「ステファン・レコ選手が左足を負傷したため、K-1オフィシャルルールにのっとり、第1リザーバーであるピーター・アーツ選手が出場します」という趣旨のマイクで、東京ドームが揺れました
彼の努力と、偉大なる業績を神が評価し、まるでモーゼのように道を開いたのではないかと錯覚してしまうような………ドラマチックなワンシーンでした

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格闘技の世界は水物。所詮はファン次第。
日本の格闘ファンは海外の事情に目も向けず、国内の烏合離散ばかり取り上げる寂しい時代に逆戻りしているんじゃないかという危惧があります。
ピーター・アーツの名が話題に上がることも少なくなりました。
ふてくされた子供のような表情で敵の弱点を常にサーチしつつ、
好機と見るや怒涛のラッシュで相手をなぎ倒す、「ランバージャック」。
真剣勝負とは何かという例……それを、日本の大衆に最も分りやすく教えた男のことを。

アーツにとって、K-1とはどういう存在か。
それは、この言葉に集約されていると思います

「オレは第1回のトーナメントから闘っている。生活の一部さ。あと数年は戦える」
(K-1 WGP 2007 FINAL ピーター・アーツ)


……なるほど。
この男には、私の杞憂などまったく不要のようです。
彼は膝の治療をして、またグランプリのシーズンになれば得意のバカ笑いとともに、
「職場」に戻ってくることでしょう。

もちろん、バッファローチェックのジャケットを羽織って。


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by the_kakato_otoshi | 2008-03-28 18:24 | K-1

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