K-1 WORLD MAX 2010 FINAL16の感想
はっきり言えば不安。
それが戦前のこの大会における印象でした。
地上波放送はなし。PPVもなし。
目玉選手はペトロシアンしかおらずメインイベンターは地元のイ・スファン。韓国出身の彼とて、それほど知名度があるファイターではないのです。
……不安なとき程、面白くなる。
そんなK-1の法則をすっかり忘れていました。
前座カードとして、63キロ数試合やMMAマッチがありましたがもう細かい試合をぐちゃぐちゃ語るのもめんどうなのでFINAL16の5試合だけ感想を書きたいと思います。
<マイク・ザンビディスvsシャヒッド>
この前に行われたアンドリュース・ナカハラの試合で氷点下までテンションを下げられた観客は、わずか10秒で興奮の坩堝に叩き込まれました。
フック打ち同士の壮絶な殴り合い。
鳥肌実風に言えば「威嚇射撃ではなく、全弾命中であります」
となります。
1Rからお互い懐に飛び込んで足を止めての打ち合い。少しでもひるめば、猛獣の餌食になるとばかりに攻撃の手を緩めません。序盤はややザンビディスがペースを掴むものの、シャヒッドも全く引きません。
ファーストラウンドが終わった時点で、韓国のオーディエンスは大歓声!
2ラウンド目もお互い「引かぬ、媚びぬ、省みぬ」とばかりに自らの奥義を尽くして(笑)打ち合います。まずはザンビディスがフックでダウンを奪うと、続けざまにもう一度倒します。これで2度のダウン! シャヒッドは後がないのですがここからが凄い。猛然ととどめをさしにくるザンビディスを迎えて反撃に転じ、今度は左フックでダウンを奪い返す!
このラウンドはお互いダウンを取り合い、3者8-7。
最終ラウンドも全く手を抜かない打ち合い。フック、ローキック、そしておたがいに見せ合うジャンピングキック……。実況のマイケル・シャベローも、解説のレイ・セフォーもただ激しく「インクレディブル!」とか「スーパーファイト!」とか叫ぶだけ。
おお、これぞK-1。どこかの国の知らない二人が、全く見知らぬ第3国で出会い、果たし合う。そして始めて出会ったどこかの誰かを心の底から震えさせる。
原初カンブリア紀のK-1の姿がそこにありました。
ギリシャ人とモロッコ人が韓国で戦い、日本人が試合を裁き、オーストラリア人とニュージーランド人とアメリカ人が実況・解説を担当し、世界の人たちがインターネットで観戦する。
ある意味では理想の縮図。そこには用意された筋書きも、主催者の思惑も、スポンサーの横槍も、ヲタが喜ぶつまらんストーリーの仕立てもない。
純度の高い「死合い」。これだ! K-1がK-1にしかできない唯一無二の光景。
3ラウンドが終了し立ち上がってハイタッチをするシャベロー、セフォー、コーガンのHDNET3人衆。
最終ラウンドはシャヒッドが取り、延長に突入しました。どよめき。
延長もシャヒッドは好調。膝蹴りをおりまぜて果敢に攻める。ザンボも飛び膝で応戦。残り1分。このまま延長戦も終わるかと思った瞬間! ザンボの右フックがシャヒッドを捉えて、ばったり!
この瞬間勝負は決したと言ってよいでしょう。なんとか立ち上がったシャヒッドでしたが反撃に使える時間はもう残されていませんでした。
割れんばかりの歓声と拍手の中で勝ち名乗りを受けたのはギリシャの「鉄の拳」。確かに実力的にこのふたりはトップクラスではないかも知れない。しかし、FINAL16に相応しい熱い試合でした。いいものを見させていただきました。
<モハメド・カマルvsアルトゥール・キシェンコ>
距離を取るタイプのキシェンコと、それを潰してフックで攻めるカマル。対照的な二人の対決は意外展開になります。
まずはキシェンコがミドルキックでカマルのボディを執拗に攻めます。ですがカマルはフックからローキック。一歩も引かない構えです。互いにダメージを与えますが、攻撃を最後に終わらせるのはカマル。差はないのですが、カマルが「優勢に見える」戦い方で試合を進めていきます。
キシェンコは2R後半あたりからややスタミナ切れか。カマルに押されるシーンが増えてきました。それでもミドルキックでカマルのボディを打つことはやめませんでした。
判定に入りますが互角の打ち合いは、僅差でカマル!
ややかみ合わない試合という気もしましたが、キシェンコは「ミドルキックのポイントを取ってほしい。抗議する」とのこと。
少なくともキシェンコの勝ちということはなかったように思いますが……。
<サガッペットvsミハウ・グロゴフスキー>
ザンビディスvsシャヒッドがパンチの共演なら、こちらは蹴りの共演。
華麗でアグレッシブな新タイ人のサガッペットがキックで主導権を握ろうとしますが、グロゴフスキーはとにかく手足が長い!! 長距離からのハイキック、ローキックが強くムエタイ王と言えども容易には攻撃があたりません。逆に左フックを被弾しダウンを奪われます。
1Rの終わりにはバッティングがあり、ミハウの眉の上がぱっくり割れました。
2Rは負けているザガッペットが大逆襲。膝蹴りが入り、後ろを向いたミハウはダウンを取られます。これで同点。とにかくふたりともアグレッシブ。ほんとに面白い。MAXは面白い。地上波で勝負させたい。
3Rは大きな動きもなく、延長に突入。しかし全くその待つ時間が苦にならない。ザガッペットもミハウも死力を尽くして蹴り技の奥義を出し尽くす。ややミハウの身体が大きいせいか印象がよいように思えます。判定の結果は、2-1。わずかな差でミハウに! ポーランドの無名選手がザガッペットという王者を倒してFINAL8へ!!
大波乱!!
ただ、ザガッペットはK-1ルールに不慣れでやりにくそうだったということも付け加えておきましょう。
<ジョルジオ・ペトロシアンvsヴィタリ・ウルコフ>
2012年に世界を滅ぼすと言われる恐怖の大王ジョルジオ・ペトロシアンが登場。
相手は190センチ近い反則的選手のウルコフ。東欧州予選の王者です。
結論から言うとペトロシアンの圧勝。しかしそのファイトスタイルは昨年からさらに進化していました。
凄まじいアグレッシブさ。あの「妖怪」と言われひょいひょいと敵の攻撃をかわしてカウンターを打つスタイルではなく、流麗にかつセンシティブでありながら自ら仕掛け、フィニッシュまで持って行く新しいゲームプランを完全に遂行していたのです。
ウルコフは王者の右フック、左ストレート、ローキック、ハイキックから逃げ場を失いクリンチでなんとか活路を見出そうとします。しかし、K-1では禁止行為。
反撃は不可能でも、とにかく最後まで立っていたウルコフ。おそらくこの選手本来なら相当強いんでしょうけど。。。
この試合を見ていない人は、MAX決勝戦の前に観ておくことをおすすめしません。
特に佐藤選手、自演乙選手のファンはなおさらです。
<イ・スファンvsドラゴ>
メイン前にお腹いっぱいになってしまったのですが、この試合も壮絶。ミドルキックで懐に入られせないスファンの作戦がうまくいっているようにみえた1Rでしたが、ラウンドの終盤にコーナーに圧力で押されてフックでダウンを奪われました。韓国ファンの悲鳴……。
昨年は佐藤嘉洋をFINAL16で退けているドラゴ。明らかに「落としちゃいけない試合」を心得ており、この試合はまさにドラゴにとって「絶対に負けられない戦いがそこにはある」だったのでしょう。
蹴りを繰り出すスファンの隙をついて懐に飛び込むとフックの連打。これが一発スファンに当たったところを強烈な右ハイキック! スファンは一撃で失神し、ゴング! すげええええええええ!
韓国ファン沈黙。ドラゴとはなんと恐るべき男か。時折弱い相手にあっさり負けるかと思えば、ここ一番では確実に勝利をモノにする。
この強靭なメンタル。これが日本人には足りない。何故だ……。これが「難民ファイター」の持つスピリットなのか……。
スファンは意識があるのかないのかわからない状況。担架に固定され、退場していきました。
壮絶な最後。これが格闘技の恐ろしさですな……。大丈夫か……? 心配だ。
以上がMAXのレポートです。文字だけ読んでもわからないので、ぜひ動画を検索して確認してみてください。
とにかく壮絶でした。とても面白かった。昨日のWGPよりも上だったかもしれません。サワー、ブアカーオがいないことで逆にフレッシュなファイトで盛り上がったのだと思います。来年にはもちろん彼らの顔を観たいですけどね。
これで今年のベスト8は自演乙、佐藤嘉洋、クラウス、ペトロシアン、ドラゴ、ミハウ・グロゴフスキー、ザンビディス、モハメド・カマルの8名になりました。5名の常連と、3名の新人。絶妙なバランスで今年のMAXも決勝戦を迎えます!!
満足できました。素晴らしかったです。
MVPはザンボですかね。
もちろん、いろいろと難しい課題はあるんだと思います。それは漏れてきますから知ってます。でも、この70キロのトーナメント。無くして欲しくはない。63キロも別にやっても構わないけど、70キロの火を消してはいけない。そんなふうに感じました。
http://twitter.com/Ebi_Knight←ツイッター
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