魔裟斗なきMAX。試練の2010年。
2002年以降、K-1MAXというイベントは魔裟斗という主役を通じて、成長していきました。
8度の世界トーナメントを開き、世界中のミドル級の強豪を日本に召いたことは、
世界の格闘技にとってとても意義があることだったと思います。
今では、オランダを中心に70キロの選手層は厚くなり、
またこのMAXというイベントを足がかりにK-1甲子園や60キロ級に手を広げることが出来、
そしてファンが行き場を失ったMMAの世界ににDREAMという場とテレビ放送を提供した。
それはやはり魔裟斗という存在があったからにほかなりません。
魔裟斗とMAXがなければ、K-1がTBSで放送されることもなく、
須藤元気や山本KIDという一般的な知名度を持ったスターも登場せず、
武田幸三や佐藤嘉洋がムエタイやキックボクシングの世界から出ることもなかった。
当然、アンディ・サワーやペトロシアンという世界最強クラスの大物が来日することもなかった。
彼だけの功績ではないですが、いわゆる象徴として、「引き金」の役割を果たしたことが凄いのです。
発明や発見の世界と同じで、「一番最初にやった人」が後世に名を残す。
よく言われる話ですが、K-1MAXの舞台に立つ以上、「魔裟斗を超える」というのは不可能なことなのです。
「一番最初」ではないわけですからね。
実力的には、決して世界ナンバーワンではなかったと思いますが、
いわば象徴・パイオニア的存在としては文句なしのナンバーワンであり、オンリーワンでした。
そのことを彼も承知しており、立ち振る舞い、発言のすべてに、自分がいかにあるべきかという意思が詰まっておりました。それを引退試合まで貫いた生き様は、やはり”見事”という言葉以外には浮かびません。
3月のMAX。
佐藤嘉洋vsジョルジオ・ペトロシアン、日菜太vs山本優弥など、珠玉の名カードが揃いましたが、
魔裟斗不在という精神的なものか、もう一つまだ盛り上がりきっていない印象がありますね。
今、MAXに必要なのは何か。
それは新しい主役。それも、アンチヒーローの存在なんだな、と痛切に感じています。
アンチヒーローとは、主役なのですが、純粋に正義ではなかったり、模範的でなかったり、美しくなかったりするキャラクターです。このアンチヒーローこそが、格闘技の世界にはよく似合う。
K-1初期の魔裟斗はまさにアンチヒーローでした。世間への挑戦者として、ビリビリとした空気を漂わせていました。しかし、徐々に角が取れてアンチヒーローから、最後は「みんなの魔裟斗」となっていきました。
アンチヒーローが、徐々に本物の英雄になっていくのは、わかりやすい物語のパターンとも言えます。
(亀田兄弟が愚行や反則などでアンチヒーローとなり、その後反省や謹慎を経て「アンチ」が取れている過程が今進行中ですね)
しかし、そうなった場合、必要なのは新しいライバルとしてのアンチヒーローです。これが残念ながら現れなかった。最後はアンディ・サワーがその役を務めましたが、彼はアンチヒーローと呼べるような性格や振る舞いの人物ではない。発言もカッコ良すぎるし、ナイスガイ過ぎますよね(笑)。
ともあれ、反逆のカリスマの物語は次にそれを紡ぐ人物を見いださずに、完結しました。
MAXの存在意義が魔裟斗であったことは言うまでもないですが、「魔裟斗物語その2」を紡ぐ人物がいないまま閉幕した。であれば、MAXが今存在する意味を出すためには、魔裟斗の物語とは別の、新しいヒーローが必要なのです。
その意味で、ペトロシアンが魔裟斗と結局戦わなかったのはよかったかもしれません。彼はカリスマ性を感じますし、「魔裟斗を倒した男」などというセンスのないキャッチコピーで紹介されたくはないからです。2010年は「魔裟斗」という名前を排除して、全く別の新しいスタートを切るためには、都合がよかったのです。
(と、考えると佐藤嘉洋はもしかすると魔裟斗と絡みすぎたかもしれません)
話を本筋に戻します。
なぜ、私がMAXの「物語」と「英雄」に言及しているかというと、
それは70キロという舞台が必要か否かという根本的な問題だからなのです。
ヘビー級というのは、「世界最強を決める」というテーマ自体が存在意義足りえます。
70キロ級というのはそれだけでシリーズ化する意味がありません。70キロがあるなら、85キロや95キロはなぜ無いのって話になります。
いままでは魔裟斗氏がいたので、テレビコンテンツとしては、やる意味があった。
ですが、他の階級に別のスターが出てきたら、別に70キロを続ける意味がなくなってしまうのです。
すでに63キロ以下級の大会がブッキングされていることからも、すでに脱70キロは始まっていると言ってもいいでしょう。
新しい物語を紡ぐ魅力を持ったファイターがなくては、MAX=70キロでなくなってしまうのですから、
3月の興行はそれを占う重要な戦いの場となります。
主役候補は3人。
ジョルジオ・ペトロシアン、佐藤嘉洋、日菜太。
ジョルジオ・ペトロシアン。
KOを狙うファイターに生まれ変わった2009年を経て、2010年も無慈悲なKO勝利を積み上げれば、彼の求心力は増してゆくでしょう。すでにファンを多く獲得しつつあるように思えます。K-1向けの戦い方をキープし、並み居る強豪を撃破していけば、無敵の王者として物語の中心になる可能性があります。
佐藤嘉洋。
日本人最強ですが、何か「中心になる」というイメージが湧かない。しかし、ペトロシアンを倒せば一気にその評価を覆せる可能性があります。魔裟斗に勝ち越しているサワーを倒した男を倒せば、注目度はかなり上がるはず。その意味では、もっとペトロシアンが知名度を得てから戦ったほうが「おいしかった」のではないでしょうか?
日菜太。
トーナメントに出ている選手の中では、正統派でかつ可能性が一番あるのでは。城戸康裕に勝ち、ザンビディスにも白星を収めた幻想あるこの選手が優勝することで、新しい主役候補の誕生になるかも。
70キロの男たちが魔裟斗後に何を魅せてくれるのか。
彼抜きでも内容の濃さなら、日本の格闘技でも随一を誇るコンテンツであるK-1MAXの本気が、観たいです。
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